2017/10/29 K-BALLET COMPANY 「クレオパトラ」千秋楽

 

Kバレエの新作「クレオパトラ」の千秋楽を見届けてきました。

回を重ねるごとに、進化し、深みを増していく素晴らしい舞台でした。

 

 

 

個人的な考え、憶測をつらつらと書き連ねています。ご注意ください。

記憶があやふやな部分もあります。間違っていたらごめんなさい。

 

 

 

初日に見た時は、変化していくクレオパトラの内面についていけず、アントニウスの死に際したクレオパトラの嘆きに、少しだけ違和感を覚えてしまいました。一幕ではあんなにも冷徹だったのに、誰かを愛すようになり、その死を悲しむようになる。絶対的な女王から一人の女性への変化がどうしても理解しきれなかったのです。(プトレマイオスの死が悲しすぎたのが一因だと思います。弟への愛が微塵も感じられないクレオパトラに対して拒否反応が出てしまったのかも。)

 

浅川さんの回を経て、少しずつ細かい心理表現に目を向けられるようになって迎えた公演だったので、新しい発見がたくさんありました!

 

一幕

やっぱり、冒頭の雅也さんがかわいすぎる!初日よりも無邪気さが増していて、笑顔がより鮮やかだった気がします。剣を手にしてから激変していく彼の内面を、序盤の可愛らしい姿が効果的に際立たせています。

プトレマイオスは王という立場より、姉に打ち勝つことに固執している気がしました。とにかく姉に勝ちたい。だけど、当人を目の前にすると怖気付いてしまう。そんな自分に対する情けなさや不甲斐なさがより一層クレオパトラへの憎しみへと繋がっていく。まさしく、負の連鎖でした。 真綿で首を絞められているような感覚が苦しかった。

ポンペイウスを殺した時、初日では少し嬉しそうな様子を見せていた気がしたのですが、千秋楽ではそれがなかった。姉をどんなに追い詰めようと、困らせようと、殺さなければ意味がない。そう物語っているようでした。あとちょっとでそれが出来たのに、彼女を逃してしまった。その事実がまた、プトレマイオスを苦しめ、無謀にも思えるカエサル暗殺計画へと繋がっていく。

毒を服して自死する時、初日ではグラスを自らの手で傾けていたと思うのですが、千秋楽ではクレオパトラに飲まされていました。プトレマイオスは自害したのではなく、クレオパトラに殺されたのだ、と強調されているようでした。

何度見てもやっぱり、悲しかった。

苦しみながらもクレオパトラだけを見つめ、追いすがるプトレマイオスの姿が、悲しかった。どうあがいても、空を切る手がクレオパトラに届くはずはないのに。骨の髄までクレオパトラへの憎しみで染まってしまった彼の生涯を思うと、一幕終わりは必ず泣いてしまいます…。

 

そんな無念の死を遂げたプトレマイオスの隣で、高らかに笑い、カエサルと抱き合うクレオパトラにはやっぱり腹が立ってしまいます。本当に、一幕終わりだけはクレオパトラが大嫌いになる!笑

 

 

選ばれた神殿男娼とクレオパトラが一夜を共にするシーン、栗山さんの場合はクレオパトラに手を掴まれた時、「え…俺、選ばれちゃったよ…どうしよう…」感(ちょっと怖気ずく感じ)、堀内さんは「選ばれちゃったぜ…!」感(嬉しい)と、演じ方がそれぞれ違いました。堀内さんの色気がすごくてびっくりしました。

 

二幕

クレオパトラカエサルが仲睦まじく踊るシーンから、カエサル暗殺までの流れ、何度見ても好きです。

クレオパトラが幸せそうなんですよね。プトレマイオスショックから中々抜け出せない中でも、ふっと顔が綻んでしまうような、微笑ましい穏やかな幸せがあった。

そんな幸せが壊れた時に彼女の心を救ったのがアントニウスだった。アントニウスって本当に優しい人だと思うんです。優しくて、優しくて、弱い人。

ガイドや侍女たちに阻まれようと、必死になってクレオパトラの力になろうとする、そんな優しさにクレオパトラは惹かれていきます。

だけど、アントニウスはオクタヴィアと結婚してしまう。オクタヴィアヌスの提案を優しいアントニウスは断ることができない。オクタヴィアの無垢な恋心を拒むことができない。自分が周りに振りまいた優しさで、自分自身の首が徐々にしまっていきます。

そして、その苦しみから逃げることしかできない。自分を愛してくれた人を傷つけ、自分が愛した人を一人残して、自分だけ死を選ぶ。

ずるい人だなと思います。でも、仕方ないかなって思えてしまうのは宮尾さんの手腕なのだな、と。

オクタヴィアと踊っている時も、アントニウスは楽しそうだったんですけどね。クレオパトラのことを忘れさえすれば、きっと彼は幸せになれたはずなのに…。

 

 

オクタヴィアヌスもとってもよかったです。遅沢さんと杉野さん、二人のオクタヴィアヌスを見て、何となく遅沢さんのオクタヴィアヌスは狡猾で冷たく、杉野さんのオクタヴィアヌスは情に溢れた人って思っていたんですけど、千秋楽でイメージが変わりました。

遅沢さんのオクタヴィアヌスは、情に溢れた温かな心と権力への貪欲な気持ちの両方を持ち合わせている。そして、そのバランスが絶妙なんだなと思いました。

オクタヴィアヌスは本当にアントニウスのことを仲間として信頼していて、心から二人で政治をしたいと思っていたのではないかと思います。だからこそ、大切な妹と結婚するように勧めた。アントニウスとオクタヴィアが踊っている時も本当に嬉しそうだった。オクタヴィアがあんまりにもアントニウスを気に入って、お兄ちゃんはあっちいっててと押しのけた時も、嬉しそうだった。すごく温かい人なんだと思います。

ブルータス処刑の時も、止めさせたい気持ちと、権力者として邪魔な者は排除しておきたい気持ちのせめぎ合いになっていた。初日では多分なかった(?)、磔を止めさせようとして差し出した手をもう片方の手で押さえ込むマイムも加わっていました。

 

オクタヴィアヌスのマイムですごく印象的なのが、拳を胸に当てる振りです。ブルータスの処刑を止めなかった時、アントニウスがオクタヴィアの元を去った時、アントニウス討伐のためにローマの男たちを率いた時。権力者として決断をした時はいつも、拳を胸に当てていました。

ただ一人の男の人として考えることと、権力者であり続けるために取る行動は必ずしも一致しない。彼は生きている中で何度も自分の気持ちと戦い続けてきたのだ、と思わせるような感情豊かなオクタヴィアヌスでした。

アントニウスを追い詰めたオクタヴィアヌスが彼を殺さなかったのは、オクタヴィアヌスという一人の人間として良心が働いたからなのか、権力者として最も残酷な形で突き放したかったのか、どちらなんでしょう。

アントニウスの首に剣を当てたオクタヴィアヌスが、一瞬真顔というか柔らかな顔に戻った気がするんです。すぐに引き締まった顔に戻って剣を首から離し、不敵な笑みを浮かべて去っていった。

オクタヴィアヌスアントニウスを許したのでしょうか?大切な妹を裏切り、友である自分を裏切った男が、クレオパトラと共に生きて行く人生を認めたのでしょうか?シネマで考えを深めたいです。

 

 

そして、クレオパトラについて。

クレオパトラはいつ、本当の愛を知ったのでしょうか。男娼やポンペイウスはないとして、問題になるのはカエサルですよね…。

私は、カエサルのことは権力前提で愛していたのではないかと思いました。一幕で見られた手で三角を作るポーズ、ピラミッドとか権力を象徴しているのかな?と思ったのですが、カエサルが暗殺された後の悲しみの踊りでも三角ポーズが見られたんですよね。

もし、本当にあのポーズが権力を表している、と考えると、クレオパトラにとって本当に悲しかったのは愛する人が死んでしまったことではなく、愛する人が持っていた権力がなくなってしまったことなんじゃないかと思ったんです。(もちろんそれが全てではないと思いますが…。)

アントニウスと踊っている時は三角ポーズが全くなかった。そもそも、カエサルと出会った時は顔を隠したりして、ミステリアスな風を醸し出したり、ある程度自分をよく見せようとしていた気がしたんです。だけど、アントニウスと出会った時、二人が恋に落ちた時はお互いにしっかりと見つめ合っていて、小細工は一切存在しなかった。

アントニウスだけは、打算的でなく本当に好きだったのだと思います。だから、彼の死があんなにもクレオパトラを狂わせた。

絶対的な女王から一人の女性へ、そして全てを超越した神のような存在へ。

数多の男たちの屍を乗り越えて光り輝くクレオパトラはあまりにも美しかった。

 

 

今回の公演を通して、プリンシパルプリンシパルたる所以がよくわかりました。舞台に立つだけで、ストーリーが動き出し、観客の目を一所に集めてしまうオーラのようなものがすごかったです。マイム一つ、表情一つでこんなにも舞台に奥行きが出るんだと驚きの連続でした。

宮尾さんと遅沢さんの共演はあまりにも豪華でした…。本当に贅沢な空間だった。

祥子さんと浅川さん。全く異なるタイプの二人ですが、どちらのクレオパトラも本当に素晴らしかったです。

長々と書いてしまいましたが、本当に素晴らしい舞台でした。出会えて本当によかったです。