2017/10/6 K-BALLET COMPANY 「クレオパトラ」

 

Kバレエの新作「クレオパトラ」を観ました。

6日、8日と鑑賞したのですが、まずは6日から。

 

 

作品の細部まで言及します。まだ観ていない方はご注意ください。

 

 

ストーリーについていけないことを危惧して、開場と同時に劇場入りし、プログラムを読み込みました。高校生の頃、日本史選択だったので(言い訳)、全く時代の流れを知らなかったのですが、付け焼き刃程度でも知識を入れた状態で観てよかったと思いました。

 

一幕では、クレオパトラの弟プトレマイオスとの権力闘争、そして、カエサルとの出会い。二幕では、カエサルの死とアントニウスの恋、オクタヴィアヌスアントニウスの争いが中心に描かれています。

一幕はエジプト、二幕はローマを舞台にしていて、大分印象が異なります。

エジプト絵画を想起させる角の強い、コンテンポラリー中心の振り付けと、ローマの華やかさ洗練された空気を表す、クラッシックバレエ要素の強い振り付け。一幕の衣装は黒や緑が多めですが、二幕は白中心で爽やかな感じがしました。

権力のためなら肉親を殺すことさえ厭わない冷徹な女王の姿から、誰かを愛することの喜びに気づき、一人の女性としての幸せを噛み締める姿へと、クレオパトラの心も劇的に変化していく。祥子さんの圧倒的な技術と表現力をもって、一人の女性の一生が鮮やかに浮かび上がっていきます。

 

一幕

エジプトの王宮にて

椅子で居眠りをするプトレマイオスから物語が始まります。

まず…雅也さんがすごくかわいい!少年感がすごいです!

木馬に飛び乗ったり、お付きの女性たちと夢中になって踊ったり。笑顔が多くて、無邪気で、自分の置かれている立場や未来なんてまだ何にも分かっていない無垢な少年という感じ。

しかし、3人の官僚(杉野さん、堀内さん、石橋さん)持つ剣に興味を持つようになってから状況が変わってきます。姉のクレオパトラを強く意識するように。

王座の象徴?である椅子を巡って2人は相対しますが、クレオパトラの迫力にプトレマイオスは怖気付いてしまう。ここはまだ少年感が強いです。

 

ポンペイウスを巡っての二人の争いが始まってからは、少年感はどこへやら、難しい表情を浮かべ、クレオパトラへの憎しみがありありと伝わって来るようになります。そこに笑顔はありません。唯一やった!という表情を浮かべていたのは、ポンペイウスを殺した時。姉に一矢報いることができた、という喜びがありました。

カエサル暗殺計画が表沙汰になり、追い詰められた時のプトレマイオスの表情がすごくよかったです。剣を首に突きつけられ、怯えたような表情を見せますが、クレオパトラのとりなしで剣が緩められると、一瞬ホッとしたような顔に。でも、クレオパトラカエサルに囁いた言葉は、弟の許しを請う言葉ではなかった。毒入りのグラスをガイドに持って来させた時の、全てを悟ったような表情。

毒を服してもなお、クレオパトラを一心に見つめ、追いすがる。

無邪気な少年時代から、王としての自覚を持ち姉を強く憎む青年時代へと。

表情、踊り、身体から発せられるオーラ全てがプトレマイオスだった。雅也さん、最高です。

 

プトレマイオスに感情移入しすぎて、一幕の終わりには思わず涙がこぼれてしまいました。(雅也さんファンなのです…)もし、プトレマイオスクレオパトラの弟に生まれてこなかったら。もし、プトレマイオスが剣に興味を持たなかったら。そうしたら、プトレマイオスの人生が、笑顔に溢れ、楽しいものになったのではないか。姉と弟が手をとって、一緒に国を治める未来があったのではないか。

そんな風に考えてしまうくらい、序盤の笑顔が鮮烈で、その分変化していく彼の内面が、彼の死が悲しかった。役作りに関してかなり熟考されているご様子でしたが、本当に感情が伝わってきました。

 

祥子さんは圧倒的なオーラでした。生まれながらの女王という感じです。

剣を持たずとも、強く美しい。何かに感情を揺さぶられることは少なく、冷徹な感じがします。ただ、プトレマイオスに気持ちが傾きすぎた私は、その冷たさが悲しかった。

二幕にも通じる部分がありますが、この時代、処刑されないこと=最大の屈辱なんですね。(=名誉の戦死すら許してもらえない。一幕の場合戦死というわけではないですが…)剣で切り捨てるのではなく、自らが盛った毒で自死させる方を選ぶなんて、何て冷たいんでしょう…悲しい…。

 

二幕

カエサルの死で物語が大きく動きます。照明や赤い旗など演出が凝っていて、すごく印象的なシーンでした。ずっと仕えてきた主君を本当に裏切っていいのか、ブルータスには最後まで迷いがあったような気がします。伊坂さんは初見だったのですが、動きが大きくて好きな踊り方でした。

 

オクタヴィアヌスとローマの男女、アントニウスたちが踊るシーン。

一幕のコンテメインの振り付けとは一転して、クラッシック要素の強い振り付けです。馴染みがあるので見ていてほっとします。群舞は益子さん、篠宮さん、堀内さんだけ把握できました。

オクタヴィアヌスは豪傑で”陽”の強いキャラクターという感じがですが、眼の奥は冷たい。権力のためなら手段を選ばない強さが、踊りから感じられます。

アントニウスは思慮深くおとなしいタイプ…と思いきや情熱的な方なんですね。落ち込むクレオパトラをガイドと共に必死に慰めようとする姿がコミカルで面白かったです。

 そして、オクタヴィア!矢内さん、すっごく素敵でした。恥ずかしがってオクタヴィアヌスの背中に隠れたり、かと思ったらアントニウスを気に入ってぴったりくっついてみたり。男性陣は表面上は仲良く明るくても、裏では政治的な考えを巡らせている様子でしたが、彼女だけはずっと無垢だった。踊りもしなやかで、素敵すぎます。(雅也さんとまたペアを組んでほしいです…)

アントニウスを愛する喜びに溢れていた彼女が、彼に見捨てられるシーンはつい、彼女に肩入れしてしまう。アントニウスへの思いが憎しみに変わってもいいはずなのに、彼女はただ悲しみに暮れていた。その姿が、妹想いの兄、オクタヴィアヌスの激しい怒りにつながったのだと思います。

 

船の上でクレオパトラアントニウスが愛を確かめ合うパドドゥは、何度もテレビで見ていたので、完成系を見ることができて嬉しかったです。宮尾さんはリフトが安定していて良い。すごく幸せな時間のはずなのに、少しだけ物悲しかった。音楽のせいでしょうか?刹那性が強く感じられました。

そして、案の定、追い詰められたアントニウス。ローマの男たちの群舞は力強さに溢れていて、かっこいい。階段を巧みに使った演出が印象に残っています。処刑される…と思いきや、オクタヴィアヌスは冷たくアントニウスを突き放し、去っていきます。絶望したアントニウスは死を選ぶ。

クレオパトラの嘆きは圧巻でした。一幕の様子からは想像がつかないくらい、取り乱し、もがく。全身を打ち振るわせ、悲しみに狂っていました。クレオパトラの心がガラガラと音を立て崩れていく。そして、ラストシーン。

 

言葉では言い表せない深い感動がありました。本当に素晴らしかったです。千秋楽も観に行くので、初日からどのような変化が生まれたのか、楽しみです。